在庫管理の重要性が叫ばれるようになって長くなりましたが、在庫を持つことは経営にどのような影響を与えるのでしょう。そのメリットとデメリットを知ることで目指すべき方向性を考えます。
お客様の注文に迅速に対応 ビジネスの機会を逃さない
在庫を持つメリットは、注文に対して素早く商品・製品を提供できることです。
受注販売の会社等を除いては、市場の需要を予想して商品・製品を用意しますが、予想以上の売れ行きを示す場合も当然あります。
その際に、販売店から注文が殺到しますが、その時に在庫がなければせっかくの売上を上げるチャンスを逃してしまうことになります。
長くブームが続けばそれでも良いですが、ブームは冷えるのも早いです。半年も経てば売れ行きは一気に落ちてしまいますから、1週間、1ヶ月と言った欠品による売上への影響は非常に大きいのです。
在庫を確保していれば、この欠品を避けることができ、ビジネスチャンスをものにすることができます。
また、欠品以外にも返品は欠陥商品による交換など消極的な理由ではありますが、在庫を持たざるを得ない状況があるため、ものを売るビジネスにおいては、在庫は不可欠です。
物価変動によるリスク
その一方で在庫を持つリスクもあります。
大きく言うと在庫の価値が下がることによるリスクです。その一つが物価の下落による価値の低下。
皆さんもよくご存じの通り、日本の経済は、長年、物価が下落傾向にある、いわゆるデフレ下にありました。1998年をピークに下落が始まり、2008年に一時的に上昇したものの、それ以降はまた下落しています(ただし、2013年から反転して2014年は1999年並みの高い水準になっています。これは円安と消費税による影響と考えられます)。
デフレ下においては、たとえば今年100円で売れたものが、翌年は90円、2年後には80円と、ものの値段が下がるわけですから、在庫を持つ期間が長くなればなるほど価値が下がっていきます。
このように物価変動の影響を受けて、在庫自体が劣化していなくても、その価値が下落してしまうのです。
陳腐化による価値の下落
もうひとつ、在庫の価値が下がるリスクとして考えられるのが、競合の機能向上やコストダウンによる陳腐化です。
どの市場にも競合がありますが、お互いに研究を重ねて、今あるものに機能を付加・向上させたり、同じものなら値段を下げたりすることによって、商品力の高い商品・製品を次々に投入していきます。
その結果、先に投入されたものは、後から投入されたものに比べて商品力が劣り、市場での価値を落としていくのです。
同じiphoneでも、今、iphone4Sを買うかと聞かれたら、「いまさら…」と思うのと同じです。
今から3年前と同じ値段で買いたいと思う人は一人もいないでしょう。
このように、競合する商品・製品が、次々と市場に投入されることによって、相対的に価値が下がってしまう「陳腐化」が、在庫として長く保有することで生じてしまうのです。
在庫のリスクは、長く保有することによるキャッシュの目減りに行き着きます
長く持つことで在庫の価値が下がることが分かりましたが、具体的にどのような問題があるかを最後に考えておきます。
在庫が価値を落とすと、会計上、帳簿価格を切り下げて、損失を出さなければいけないことや、税務上はその損失をそのまま経費にすることができないこと、など技術的な問題もあるのですが、経営上、最も問題になるのは、会社のお金が目減りしてしまうことです。
商品・製品を手に入れるためにはお金が出ていきます。そうして手に入れた商品・製品を売ることで、今度はお金が入ってきます。
こうして「出ていくお金(仕入or製造)」と「入ってくるお金(売上)」の差が大きくなるほど、会社にお金がたまって行くわけです。
ところが、在庫として商品・製品を長くもってしまうと、市場での価値が下がってしまうために「入ってくるお金(売上)」が小さくなってしまいます。さらに、売り時を逃してしまうと値段を下げても売ることができず、お金が出ていったまま、の状態になってしまうことさえあります。
こうなってしまっては、会社からお金が出て行くばかりで、会社の持っているお金が目減りしてしまいます。
これが続くといずれは資金繰りが行き詰まり、会社をたたまなければならなくなるのです。
在庫を持ち続けることは、売り時を逃して「入ってくるお金(売上)」を小さくしてしまい、資金繰りを圧迫する可能性がある。
このことが、在庫を小さくするべき最大の理由なのです。
反対に言えば、在庫を持ち続けることで在庫の価値が上がるようなケースでは、「入ってくるお金(売上)」が大きくなるのですから、長期間持っておくことにも問題はないということになります。
まとめ
在庫はとにかく少なくすれば良いと言うわけではありません。
取得するために支払ったお金と比較して、在庫の値段が今後上がるか下がるかを考えて判断すれば良いのです。
現在の経営環境下(物価の下落傾向、技術革新による早期の陳腐化など)では多くの商品・製品では、早期の値崩れが予想されるために「在庫を少なくせよ」と言う主張に合理性があるというに過ぎません。
在庫管理もその理由を考えて、自社に合う形を選択しましょう。
<おまけ>
Jリーグがシーズンオフになると、無性に自分でクラブを作りたくなります。
ゲームの中の愛媛FCはマンチェスター・ユナイテッドからルーニー選手を獲得。シーズン開幕から点を取りまくってくれています。
現実はそうも行きませんが、このゲームがきっかけになってクラブ経営に興味が行くようになったのは間違いのない事実。
ファジアーノ岡山や愛媛FCのようなスモールクラブがどうやって生き残っていくのかは、フィールドの中と同じくらい興味のあることです。