すこし古くなってしまったのですが、東芝の粉飾決算に関する第三者委員会の報告書で挙げられていた、粉飾の原因の1つに「それ言っちゃダメだろー」と思ったことがありました。
調査報告書の挙げた不正の原因
東芝の第三者委員会報告書の内容については、こちらの記事で詳しく取り上げましたが、
その原因に言及した部分で「おや?」と思っていたところがありました。
報告書の中では粉飾の直接的な原因として、7つの項目を挙げています。
1.経営トップらの関与を含めた組織的な関与
2.経営トップらにおける「見かけ上の当期利益の嵩上げ」の目的
3.当期利益至上主義と目標必達のプレッシャー
と、ここまでは「まあ、そうだよね」と思うことが並ぶのですが、次に来るのが、
4.上司の意向に逆らうことができないという企業風土
ここで組織全体というか、部下の側の問題が指摘されるんですよね。
ただ、ここに粉飾の原因を求めてしまうと、「どこの会社でも粉飾がおこって当たり前」になってしまうので、「そりゃダメだろー」と思った訳です。
「上司の意向に逆らうことができないという企業風土」は、会社組織の性質上、必然的にできあがるものですからね。
「会社」は、”大量の仕事”を”効率よく”仕上げるための仕組み
「会社」を作る最大の目的は何かというと、「利益を追求すること」。
なので、会社組織も「利益を追求するため」に、最も適した形に作られています。
利益は、商・製品、サービス(仕事の成果)を提供して、それと交換にお金を受け取ることを繰り返すことで生み出されますから、
「利益を追求するため」に適した会社組織は、
「できるだけ多くの仕事を、できるだけ高い効率でこなせる形」
を追求してできあがっています。
その結果、一般的な会社組織が、どのような形になっているかというと、
職位によって上位、下位が明確に区分され、上位者は権限が与えられて下位者に指示を出し、下位者は指示に従って仕事をするという、一種のピラミッド構造になっています。
できるだけ多くの仕事をこなすためには、相応の人員が必要になります。
多くの人員をまとめて、一つの目的に向かって仕事をしてもらうには、
指揮命令系統がハッキリしていて、上位者の「してほしいこと」が下位者に正確に伝える必要があるので、このようなピラミッド構造がふさわしいのです。
もし、階層も権限も明確でない組織だったら、「あなたの言うことは聞きたくありません」が通用してしまいます。
そうなると、とても効率よく仕事をこなすことなどできませんから、ある程度強制的に指示に従わせる形でないと困ってしまうのです。
ということで、会社組織は必然的に「下位者は上位者の指示に従う」あるいは「部下は上司の指示に従う」という土壌を持つことになりますし、
会社の目的(=利益の追求)を考えれば、それでOKなのです。
会社で「ちゃんとやる」のは大事で、大変なこと
会社組織は必然的に「部下は上司の指示に従う」土壌をもつことを見てきましたが、それを踏まえると、会社で”デキる”と評価される人がどのような人かも見えてきます。
それは、
上司の求めるものを正しく理解して、それに沿うような成果を上げられる人
です。
「うーん、分かるけど、つまんないなぁ」という人もいるかもしれませんが、これって結構タイヘンです。
「上司が何を求めてるかを理解する」というのは、上司の考えを読むことだったり、その人の過去の仕事から好みを知ることだったり、その人から好意的な印象を持たれるようにして心を開いてもらうことだったり、言葉で伝えられる以上のことをつかんでいないとダメですし、
仕事で成果を出すためには、自分自身のスキルが他の人より優れていなければいけません。
いくら自分が優れていても、他に同等かそれ以上の人がいたら、評価にはつながりませんから、個人のスキルで秀でることも条件になります。
なので、言葉にするとつまらなそうでも、実際にそれをやれる人というのは、本当に優れた人だけです。
ということで、会社の中で仕事をしながら、しかも出世していくというのは、結構大変なことですし、
出世を目指すなら、たとえ大変でも、このような会社組織で求められることを、ちゃんと実践していくと言うのが大事です。
会社組織の中で勝ち残った人に「上司の意向に逆らえ」はムリ
ここまでで、会社組織は必然的に「部下は上司の指示に従う」土壌をもつこと、会社で上位の役職にいる人(=出世した人)は、上司の指示に従うことが上手にできる人達であることを見てきました。
とすると、最初に出てきた東芝の第三者委員会の指摘した内容のおかしさが見えてきます。
「4.上司の意向に逆らうことができないという企業風土」って、
会社の目的や成り立ち、そこで大きな権限を持っている人達の性質を見てみれば、東芝に限らずどこの会社でも当たり前ですよね。
と言うか、そもそもそう言う組織こそが会社ですから、「今更そんなこと言われても…」という話です。
まあ、「法律や一般的なルールに反するようなことには、上司の命令でも従うなよ」ということを言いたいんでしょうけど、いくら反対しても権限がないので部下としてはどうしようもないのが現実ですからね。
「上司の意向に逆らえない企業風土」に原因を見出すのは意味がないでしょう。
必要なのは、それ(=部下は上司に逆らえないこと)は前提とした上で、何が粉飾の原因になったかの指摘ですから、帰結すべきは経営トップの姿勢になるのではないでしょうか。
委員の先生は、”あの”ドラマが好きだったのかもね
ただ、調査報告書の委員は、弁護士と公認会計士の方達なんですよね。
会社がどんな仕組みで動いているか、そこで働く人達がどんな気持ちを抱いているかはよく分かっていたはず。
何より、自分たちが大きな組織の中で上位に上り詰めた人達ですから、実際に上司も部下も経験した上で、
会社にとっても自分にとっても「上司の期待に応えることが、どれほど大切か」はよく分かっていたはずです。
それなのに、粉飾の原因として「上司の意向に逆らえないという企業風土があった」ことを挙げてしまったということは…。
(もう古いけど)あのドラマの影響かもしれませんね!
(実際には、経営トップの問題ばかり指摘すると、問題がそこだけに集約されてしまうので、バランスを取りたかったんでしょうけどね)
まとめ
会社組織は「部下が上司に従う土壌」を必然的に持っています。
これを粉飾の原因として指摘するのは、あまり意味のないことです。
必要なのは「部下が上司に従う土壌」を前提として、粉飾が起こってしまった原因を指摘することです。
おまけ
半沢直樹ですか? 見たことないですよ。