「工事進行基準」と粉飾決算  東芝の決算でも話題になっている「工事進行基準」は、”見積もり”が問題になります

東芝の決算の問題点の一つとして、注目されているのが「工事進行基準」に関連する営業利益の水増しです。「工事進行基準」の中身と、それがどのように利益の水増しにつながっていくかを考えてみます。

目次

売上のタイミングを決める基準

会社では法律によって会計記録を付けて、1年に1度は決算書を作成することが義務づけられています。

 
決算書には、「その年の儲けがどれだけあったか」を記録する「損益計算書」がありますが、

 

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 トヨタ自動車さんの単体の損益計算書(出典:トヨタ自動車株式会社 2015年3月期 有価証券報告書)

 
その中身は、

 

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「売上」から「経費」をひいて、「利益(会社の儲け)」を計算する仕組みになっています。

 
なので、「損益計算書」を作るためには、全ての「売上」と「経費」を一つ一つ、会計ソフトなどで記録していかなければいけないのですが、記録について言うと「じゃ、どのタイミングで記録すれば良いの?」という問題がでてきます。

 

 

売上のタイミングは、”ウリモノ”の価値が生まれたとき

 
売上のタイミングにはいろいろあって、ざっと挙げてみるだけでも、

 
・製品ができあがったとき

 
・製品を相手に引き渡したとき

 
・代金が支払われたとき

 
などが考えられます。

 
で、どれかに決めなければいけないのですが、現在の会計のルールでは、「売上も経費も、できるだけ実態に合わせて記録するようにしよう」という方針になっていて、

 

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に記録することになっています。

 
ちょっと分かりづらいので、具体的に考えてみましょう。

 
コンビニなどでよくみかける、コレ。

 

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(出典:有楽製菓株式会社 公式サイト)

 
ブラックサンダーです。

 
販売価格はだいたい30円ですが、いきなり30円のブラックサンダーが現れるわけではありません。

 
有楽製菓さんの製造工場で、

 

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 1.材料を混ぜ (出典:有楽製菓株式会社 公式サイト)

 

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 2.形を整えて

 

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 3.冷やして

 

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 4.パッケージする

 
という工程を経て、少しずつできあがっていきます。

 
つまり、販売価格の30円は、いきなり「ポンッ」と生まれるのではなく、「少しずつ価値が生まれて行った結果」と言うことなのです。

 

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この「少しずつ価値が生まれていく」実態を表すように、売上を記録しようとするのが、先ほど説明した、

 
「商品・製品などの”ウリモノ”に価値が生まれたとき」

 
を売上のタイミングにする、という考え方です。

 
ブラックサンダーを例に取ると、売上のタイミングと、売上額はこのようになります。

 

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では、実際に有楽製菓さんが、工場のブラックサンダーのできあがり具合を見ながら、売上を記録しているかというとそうではありません。

 
売上を記録するには、もうひとつ条件が揃わなければいけないからです。

 

 

売上を記録するには、「お金の裏付け」がないとダメ

有楽製菓さんが、どのタイミングでブラックサンダーの売上を記録しているかというと、

 
「ブラックサンダーを、取引先に引き渡したとき

 
です。

 
細かい流通経路は分かりませんが、コンビニやスーパーなどの小売店や卸の業者さんなどが取引先でしょうから、そちらにブラックサンダーを引き渡したときが売上のタイミングになります。

 
先ほど説明したとおり、「”ウリモノ”の価値が生まれたとき」が売上を記録するタイミングになるのは間違いないのですが、 
売上を記録するためには、それ以外に不可欠な条件があるのです。

 
そのため、工場でブラックサンダーができあがって行く過程では、売上を記録していないのです。

 
その条件は、

 
売上に対応するお金(代金)の裏付けがあること

 
です。

 
ブラックサンダーは工場でできあがっていく過程では、それが確実に売れて、代金が支払われるという保証はありません。

 
取引先からの注文があって初めて、売れる可能性が高まります。

 
そして、実際に製品を出荷して取引先に渡り、

 
「確かに、注文の品を受け取りましたよ」

 
という取引先からの承認が取れた段階で、ようやく代金の支払いが約束されることになります。

 
逆に言うと、取引先が受け取ってくれるまでは、ブラックサンダーをいくら作っても、会社にお金が入ってくるかどうかは分からないわけで、

 
その段階では、売上として記録することはできない、ということなのです。

 

 
以上のように、現在の会計制度では、売上を記録するタイミングについて、

 

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このように決められています。

 
その結果、「お金(代金)の裏付け」の条件が求められることから、商品や製品を提供して、売上を上げている会社のほとんどで、

 
商品・製品を取引先に引き渡したとき

 
が売上を記録するタイミングになっています。

 

 

「工事進行基準」は「売上を記録するタイミング」の基準

そこで、「工事進行基準」です。

 
「工事進行基準」が何なのかというと、ここまで取り上げてきた、

 
「売上を記録するタイミング」

 
の基準の1つです。

 

 

工事進行基準

「工事進行基準」をおおまかに言ってしまうと、道路や橋、大型プラントの建設など、大型工事については、売上を記録するタイミングを、

 
「”ウリモノ”に価値が生まれたとき」にする

 
と言う基準です。

 
橋を架ける工事を請け負った、建設会社の売上を例に取ると、

 

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こういった、出来上がり具合に合わせて、

 

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売上も記録してしまおう、

 
という基準です。

 
先ほどの段落の最後で、ほとんどの会社の売上を記録するタイミングは、「”ウリモノ”に価値が生まれたとき」ではダメで、

 
「商品・製品を取引先に引き渡したとき」になっている

 
と説明しました。

 
ですが、「工事進行基準」では、「”ウリモノ”に価値が生まれたとき」に売上を記録することを認めているのです。

 
これは、一般的に行われている商品・製品の販売とは異なる特徴が、大型工事にあるためです。

 

 

工事完成まで売上”ゼロ”では、会社の業績が分からない

大型工事の売上を、

 
「商品・製品を取引先に引き渡したとき」

 
に記録することを考えてみると、大きな問題があることが分かります。

 
橋や大規模なプラントなどは、着工から完成まで長期間を要するものがほとんどです(瀬戸大橋は10年近くかかっています)。

 
その工事期間中は、当然、完成していませんから、橋やプラントを引き渡すことができず、その間は、売上が”ゼロ”と記録されることになります。

 
そして、完成した時に、一気に何10億、何100億という売上が記録されるのです。

 
これでは、決算書を見て会社の業績を判断しようとするときに、

 
・工事期間中:売上”ゼロ” → 業績不調
 
・完成した年:売上「数百億円」 → 桁違いの業績

 
と非常に偏った結論を導く可能性があります。

 
これではあまりにもバランスを欠いているので、

 
「”ウリモノ”に価値が生まれたとき」

 
工事にあてはめると、

 
「工事の進捗に応じて生まれた、道路や橋の価値に応じて」

 
売上を記録することが認められるのです。

 
ただし、「お金(代金)の裏付け」が必要なことは、「工事進行基準」でも同じ。

 
国や自治体、その他の公的な機関、財務状況が良い大企業など、支払い能力に問題がない取引先と契約を結び、 
代金の支払いを確実に行うことを契約書で明らかにすることができれば、「工事進行基準」を使うことができます。

 

 

 

「工事進行基準」の問題の一つは、”見積もり”

では、「工事進行基準」がどのように粉飾決算とつながっていくかですが、大きなポイントの一つが”見積もり”です。

 
「工事進行基準」は先ほど説明したとおり、

 
「工事の進捗に応じて生まれた、道路や橋の価値に応じて」

 
売上を記録します。

 
ということで、実際の会計処理においては、「工事の進捗(工事がどれくらい進んだか)」を測定しなければいけません。

 
具体的には、工事費用の割合で測定するのですが、

 

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このような式を使います。

 
実際の数字で確かめておくと、工事費用が毎年50億円、合計で200億円かかるとして、

 

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1年目の進捗を求めると、

 

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25%になります。

 
あとは、全体の売上に進捗度をかけて、今年の売上が決まります。 
全体の売上を300億円とすると、

 

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75億円になります。

 
で、ここで考えていただきたいのが、工事費総額

 
実際にかかった費用は、事実に基づいて記録しなければいけないので、ごまかすことが難しいです。

 
ですが、工事費総額は工事が始まる段階で、”見積もり”によって決めるもので、事実ではありません。

 
”見積もり”は、将来の予測であるため、見積もりで出てきた金額が妥当かどうかを判断することが非常に難しく、 
この部分で会社に都合の良い金額が設定され、粉飾につながる可能性がでてきます。

 
ここが、「工事進行基準」の大きな問題点です。

 
具体的に見てみましょう。 
たとえば、先ほどの例に挙げた工事について、本当なら工事費全体で200億円かかるところを、わざと150億円に設定したとします。

 

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1年目には50億円が発生しますから、工事の進捗度は、

 

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この進捗度に合わせて、1年目の売上を計算すると、

 

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最初の工事費総額200億円の場合と比較してみましょう。 
1年目、同じ50億円の工事費用がかかったにもかかわらず、

 

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売上は24億円も違います。 
もちろん、利益もその分増えることになりますね。

 

 
このように、妥当性を検証しづらい”見積もり”の部分は、利益操作で利用されるリスクが高く、粉飾と関わりやすいところです。

 

 

 

まとめ

「工事進行基準」は、長期の工事について、工事の進捗に応じて売上を記録する基準です。 
工事の進捗を測定するには、工事費用の総額を見積もる必要がありますが、この”見積もり”の部分が利益操作に使われるリスクが高く、粉飾の原因になりやすいところです。

 

おまけ

「見積もり」は、会計処理の中でも非常に難しいところで、神経を使いますが、顧問契約や税務コンサルティングなどで、お客様にお伝えする「税金の見積もり」にも神経を使います。 
ブレが大きいと、信頼を損なうことになりますし、何より、資金繰りの問題につながるからです。 
税額計算のファイルのメンテナンスと、データ入力の正確性に気をつけています。

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