キャッシュフロー計算書は、会社のお金の出入りを表す資料です。貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書とともに決算書を構成する資料ですが、損益計算書との関係を正しくつかむことが、キャッシュフロー計算書を理解するポイントになります。
「黒字なのに資金不足」の実態を明らかにするキャッシュフロー計算書
キャッシュフロー計算書は、最も新しい決算書です。
貸借対照表、損益計算書の2つでは説明できない、「お金の動き」を表現するために作成されます。
将来の株価を予想する方法として、「会社がお金を生み出す力」に着目する投資家が増えてきたことが、キャッシュフロー計算書を決算書に加えるきっかけになったと言われています。
もちろん、会社に関わるのは、投資家だけではありません。
会社にお金を貸している銀行や、仕入先や得意先などの取引先、一般の消費者なども、会社の関わる重要な存在です。
このような、投資家以外の会社関係者にとってもキャッシュフロー計算書は大きな役割を果たします。
最も分かりやすいのは、「黒字倒産」「黒字なのに資金不足」といった状況を知ることができること。
黒字は、ご存じの通り、損益計算書の計算結果として「利益が出ている」という意味です。
1年間の経営活動を報告する、損益計算書で利益が出ているのですから、損益計算書を見た関係者は「経営が上手くいっている」と判断するでしょうし、利益はお金の裏付けがあってこそ記録することができますから、「お金の支払いも問題ない」と考えるのも無理はありません。
ですが、実際には損益計算書上の利益の大きさと、会社が支払いに使えるお金は、必ずしも一致しません。
なぜなら、損益計算書で利益を記録するタイミングと、お金が会社に入ってくるタイミングにズレがあることがありますし、会社では損益計算書に記録されている内容以外にも、お金の出入りは生じるからです。
この「黒字が出ている=支払えるお金がある」という誤解を解くのが、キャッシュフロー計算書の役割になります。
つまり、キャッシュフロー計算書は、
1.「利益を記録するタイミング」と「会社にお金が入ってくるタイミング」にズレがある
2.損益計算書には記録されない、お金の出入りがある
この2点によって損益計算書では説明できない、会社の資金の流れを説明する資料ということです。
ここが分かってくると、損益計算書とキャッシュフロー計算書の違いが理解できます。
そこで、次の章では、具体的な取引を通じて、損益計算書とキャッシュフロー計算書の違いを見ていくことにします。
具体的な取引で見る、「損益計算書」と「キャッシュフロー計算書」の違い
次のような会社の取引を考えます。
複雑になりすぎないように、取引は「仕入」「売上」と「固定資産の購入」の3つに限定しています。
この3つの取引が、損益計算書、キャッシュフロー計算書でどのように記録されるかを考えることで、両者の違いが見えてきます。
1.仕入
まず、仕入取引です。2台の車を200万円で仕入れています。
この取引は損益計算書とキャッシュフロー計算書でどのように記録されるでしょうか。
正解は、
こうなります。
もちろん、支払いを将来に先延ばししてもらう契約を結んでいる場合もあります。
買掛金を使って仕入れる方法ですね。この場合は次のようになります。
キャッシュフロー計算書の観点はただ一つ。
「お金の出入り」という事実に基づいて記録していきますから、支払いがなければ記録されません。
キャッシュフロー計算書で支払いの記録がされるのは、将来、代金を支払った時です。
2.売上
次に、売上取引です。1台の車を150万円で販売しています。
この取引は損益計算書とキャッシュフロー計算書でどのように記録されるでしょうか。
正解は、
こうなります。
入金が将来発生するケースを想定しています。
取引先との力関係で、「先にモノを渡す」ということもよくありますので、売上は記録されるものの、お金が入ってきていない状態が発生するのです。
一方で、現金商売を実践している会社だと、このようになります。
スーパーやコンビニでの買い物を思い浮かべていただくと、お分かりになると思います。
品物と引き替えにお金を渡しますので、会社側からすると、売上と同時にお金が入ってくることになるので、「お金の出入り」という事実に基づいて記録キャッシュフロー計算書では、入金が記録されることになります。
先ほど取り上げた仕入取引と、ここで取り上げた売上取引は、損益計算書とキャッシュフロー計算書の違いを、よく表しています。
先述した、「利益を記録するタイミング」と「会社にお金が入ってくるタイミング」にズレがあるケースの典型です。
ここで、より明確にその違いを実感していただくために、
仕入取引を現金で、売上取引を売掛金で行う場合を想定して、
両方の取引をまとめて見てみます。
すると、
利益が出ているのに、お金の流れではマイナスになってしまうのです。
お金の流れを考えると、モノがなければ売ることができないので、当然、売上よりも仕入が先行して行われます。その結果、支払いも先に発生。
一方で、取引先との力関係や、金額の大きさなどで、売上代金の入金は先延ばし(クレジットカードでの支払いや分割払いなどを思い浮かべて下さい。これも入金の先延ばしです)になることがあります。
そうなると、上述したような、「利益はあるのにお金がない!」といった状態になるのです。
取引に惑わされず、お金の出入りとその原因だけを追いかけることができると、キャッシュフロー計算書の考え方が見えてきます。
3.固定資産の購入
最後に、固定資産の購入です。
会社は、車の保管用の倉庫も購入していました。
この取引は損益計算書とキャッシュフロー計算書でどのように記録されるでしょうか。
正解は、
こうなります。
これは、先述した損益計算書には記録されない、お金の出入りの例です。
売上をはるかに超えるような支払いがあっても、損益計算書ではその事実は分かりません。
貸借対照表に記録されますが、貸借対照表の残高は、固定資産の購入以外の要素でも、増えたり減ったりしますので、当期にどれだけの支払いがあったかは、簡単には分かりません。
このような、損益計算書に記録されない、貸借対照表では分かりづらいお金の動きを記録する点も、キャッシュフロー計算書の特長と言えます。
なお、固定資産の購入は一例に過ぎません。
借入やその返済、有価証券の購入と売却、株式の発行と自己株式の購入など、損益計算書に記録されないお金の動きは、他にもたくさんありますが、キャッシュフロー計算書ではそれらが全て記録されます。
まとめ
損益計算書とキャッシュフロー計算書の違いを理解するには、その原因にあたる、①「利益を記録するタイミング」と「会社にお金が入ってくるタイミング」のズレと、②損益計算書には記録されない、お金の出入り、を具体例で考えられるようになるのがポイントです。
お金の出入りとその原因だけを追いかける感覚を持っておくと上手くいきます。
<おまけ>
先週今週とセミナーが続きます。
普段は書籍中心で知識を得ているので、セミナー形式で学ぶのは刺激になって良いですね。
さすがに読んでばかりだと飽きます。