平成29年度税制改正大綱のポイント解説 (法人税編)

平成28年度の税制改正大綱が発表されました。今回は法人税、法人住民税に関するポイントを見ていきます。

 

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目次

税制改正大綱って? その中身と公表までのスケジュール

まずは、「税制改正大綱」について簡単に説明しますね。

「税制改正大綱」は、「次の年度に税金の仕組みをどのように変えるか」を与党(現在は自民党と公明党ですね)が話し合ってまとめたものです。

[aside type=”normal”] 税制改正大綱

次年度の税金の仕組みを与党が話し合ってまとめたもの

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「税制改正大綱」は、”案”に過ぎないので、法律として正式に決定されるまでには段階を踏む必要がありますが、それでも、「税制改正大綱」にまとめられた内容は、概ねその通りに決まることから、毎年多くの注目を集めます。

 

税制改正大綱は、次のようなスケジュールで公表されます。

 

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各省庁は、政府の方針に沿って税制どのように変えていくべきかを検討し、各業界団体の意見も採り入れながら、「税制改正に関する要望」をとりまとめます。

与党の税制調査会では、「税制改正に関する要望」を元に翌年の税制改正の内容を検討します。税制調査会には議員だけでなく各省庁の官僚も出席して、内容の説明や議員からの質問に答えます。「税制改正に関する要望」を作成するのが各省庁ですから、実のある議論にするに、当事者である官僚も同席するんですね。

税制調査会で各論点について約2ヶ月検討して、その結果をとりまとめて税制改正大綱が完成、公表されます。

 

毎年このようなスケジュールで公表されますが、大きな改正が含まれる場合は、とりまとめに時間がかかり公表が年末までずれこむこともあります(平成27年度は12月30日公表でした)。

 

 

中小企業向けの減税措置 平均所得15億円超の企業を除外

中小企業向けの減税措置について、新たに所得制限が設けられます。

これまで、法人税法で中小企業に分類される「資本金1億円以下の会社」は、中小企業向けの減税制度を利用することができましたが、平成31年4月1日以後に始まる事業年度からは、「平均所得銀額(前3事業年度の所得金額の平均)が15億円を超える企業」については資本金が1億円以下であっても、利用することができなくなります。

 
[aside type=”normal”] 中小企業向けの減税制度を利用できる会社

資本金1億円以下

平均所得金額(前3事業年度の所得金額の平均)15億円以下

両方を満たす会社
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これは、企業規模(売上の規模)としては大企業と考えられるような会社が、わざと資本金を減少させることで中小企業向けの減税制度を利用するケースが増えてきたたことから、制度本来の目的(税負担を軽減することで中小企業の活力を強化する)が損なわれないように、一定以上の規模の会社が中小企業向けの制度を利用することを防ぐためです。

 

「資本金1億円以下」「平均所得金額15億円超」の会社で利用できなくなる中小企業向けの減税措置は次の通りです。

 

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中小企業向けの減税措置は上記以外にもありますが、今回対象となっているのは、一定の期限内で認められる制度(政策減税)で、期限を設けずに認められる制度(恒久減税)は対象外になっています。

従って、「法人税の軽減税率(19%)」「貸倒引当金の損金算入」「欠損金の繰越」「欠損金の繰戻還付」などは、所得に関係なく資本金1億円以下の会社なら利用することができます。

 

[voice icon=”https://yz-actax.com/wp-content/uploads/2016/09/IMG_9448.jpg” name=”タカジム” type=”l fb”]中小企業が”資本金の額”によって決められていることで、中小企業向けの税制には抜け穴がありました。資本金は、設立時を除けばほとんど意味がないですから、税負担のことを考えると思い切って減資して負担を軽減するのが合理的な選択です。自力で経営再建を目指していたシャープも、一時、減資を検討していましたが、その際も税負担の軽減が目的ではないかと言われていました。[/voice]

 

 

研究開発費税制 
税額控除の控除率引き上げと、研究開発費の範囲の拡大

研究開発費税制についても変更があります。

主な変更は、税額控除率の引き上げと、試験研究費の範囲拡大の2点。

研究開発を促して高付加価値の製品やサービスを生み出すことで、経済成長を促進することが目的です。

 

現行制度と改正案の概要

最初に現行制度と改正案の概要を見ておきましょう。

 

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現在の研究開発費税制は、

試験研究費の総額に対して一定率を税額控除する「総額型」、

過去3年の試験研究費の平均より増加した場合に税額控除する「増加型」、

試験研究費の対売上比率が10%を越えた場合に税額控除する「高水準型

大学や研究機関等への委託(or共同開発)による試験研究の費用について税額控除する「オープンイノベーション型

の4つで構成されています。

改正案では、各制度について廃止もしくは変更が行われています。

[voice icon=”https://yz-actax.com/wp-content/uploads/2016/09/IMG_9448.jpg” name=”タカジム” type=”l fb”]研究開発費税制は一見複雑なので敬遠されがちですが、まずは総額型とオープンイノベーション型の概要をおさえるところから始めましょう。細かい計算を省けば、効率よく理解できます[/voice]

 

「増加型」の廃止 「高水準型」の延長

研究開発費税制の4つの制度のうち、「総額型」と「オープンイノベーション型」は期限が決まっていない恒久制度で今後も継続しますが、「増加型」「高水準型」平成28年度が期限になっていてその扱いが注目されていました。

この点について改正案では、「増加型」については「総額型」に統合した上で廃止。「高水準型」は期限を平成30年まで延長して制度を継続することになっています。

 

「総額型」の税額控除率変更

「総額型」の税額控除額は、

 

試験研究費 × 税額控除率

 

で計算されますが、改正案では税額控除率が変更されることになりました。これは、「増加型」が廃止され「総額型」に統合されることになったことから、「総額型」の税額控除率に試験研究費の増減を加味することにしたためです。

具体的には次の通りです。

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なお、中小企業については次の通りです。

 

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試験研究費の範囲の拡大(※注意が必要)

試験研究費の範囲が拡大されます。

具体的には、次のようになります。

 

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従来は、製造業を前提として新製品の開発や既存製品の機能を大幅に改善するために行うための試験研究費を対象としていましたが、そこに新サービスの開発が加わることになりました。

「新サービスの開発」というと、飲食店の新しいメニューの開発などサービス業全般で始める新サービスに係わる試験研究費が広く含まれるような感じがしますが、そうではないんです。

今回試験研究費の範囲に含まれることになった「新サービスの開発」は、ビッグデータを利用した新サービスの開発を想定したもので、

たとえば、センサーを装着して従業員の行動に関するデータを収集・分析して、従業員の最適な行動を見つけ出したり、経験豊富な農家にカメラやセンサーを装着してもらい、農作業に関するデータを収集・分析して、農作業の最適な判断を数値によって把握して、新規に農業へ従事する農家への支援サービスを開発するなど、

専門的な情報収集と分析を必要としていて、その範囲は非常に限られています。

[voice icon=”https://yz-actax.com/wp-content/uploads/2016/09/IMG_9448.jpg” name=”タカジム” type=”l fb”]今回の改正で「新サービスの開発」が試験研究費に含まれることになりましたが、対象となるのは”ビッグデータを活用した”新サービスの開発ですので注意が必要です。[/voice]

 

オープンイノベーション型の運用の改善

オープンイノベーション型の研究開発税制(大学や研究機関への委託、共同研究による研究開発費に対する税額控除)について、制度が使いやすくするための変更が行われます。

まず、オープンイノベーション型の研究開発費のうち、共同研究・委託研究の相手方が支出する費用のうち自社で負担するものについては、費目による限定(「原材料費」「人件費」「旅費」「経費」「外注費」に限定)されていましたが、改正案ではこの限定がなくなり、「研究に要した費用」に変わりました。これで、
費目は関係なく試験研究のための費用は全て含まれることになります。

次に、契約変更前に支出した費用について、その契約に係わるものであることがはっきりしていて、契約変更日と同じ年度内に支出された費用については特別試験研究費の対象になります。

さらに、共同研究・委託研究であることを証明するために、相手方から費用の明細書と領収書を取り寄せる必要がありましたが、必要がなくなりました。共同研究・委託研究の相手方の事務処理負担を軽減するための変更です。

以上の3点がオープンイノベーション型の研究開発費税制についての変更点です。

 

[voice icon=”https://yz-actax.com/wp-content/uploads/2016/09/IMG_9448.jpg” name=”タカジム” type=”l fb”]法人税に限ると、今回の税制改正大綱の中で最も紙面を割いて力を入れているのが、研究開発費税制です。従来の試験研究費について税額控除を拡大するとともに、ビッグデータとAIを使ったイノベーションに関する試験研究に対して税制面で優遇しようとしているのが特徴的です。ビッグデータ、AIについては導入のコストもかなり下がってきていますので、中小企業でも活用されるケースが増えてくるでしょう。[/voice]

 

中小企業投資促進税制の拡充と
地域中核企業向け設備投資促進税制の創設

中小企業の投資促進を目的とした税制が強化されます。

すでに導入されている「中小企業投資促進税制」が拡充され、さらに、「地域中核企業向け設備投資促進税制」が新設されることになりました。

 

地域中核企業向け設備投資促進税制

「地域中核企業向け設備投資促進税制」は、地域の中核企業が、地域経済の活性化が見込める新しいビジネスを始める時に行う設備投資に対して、特別償却税額控除が受けられる制度です。

概要は次の通り。

 

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一応まとめてはみましたが、未だ全貌が明らかになっていない「地域未来投資促進法」(仮称)が前提になっているので、「全体的に”フワッ”とした仕上がりになっています。

今後、関連する法律も含めて、もう少し内容が具体的になった段階で加筆していきます。

 

中小企業経営強化税制

従来の「中小企業投資促進税制」の上乗せ措置(生産性向上設備の即時償却などの制度)が、「中小企業経営強化税制」として新設されることになりました。

概要は次のとおりです。

 

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内容については、従来の「中小企業投資促進税制」の上乗せ措置(生産性向上設備の即時償却などの制度)とほぼ同じですが、対象資産に器具備品、建物付属設備が追加されているのがこれまでとの違いです。

 

なお、「中小企業経営強化税制」と類似した制度に「生産性向上設備投資促進税制」があります。

両者はほぼ同じ要件なので、両方の制度が利用できることが多いですが、「中小企業経営強化税制」の方が税制措置の点でやや有利なので、「中小企業経営強化税制」を利用するほうがいいでしょう。

 

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中小企業投資促進税制

「中小企業投資促進税制」が変更されます。

概要は次の通りです。

 

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対象資産から「器具備品」が除外されているのが変更点です。

商業・サービス業・農林水産業活性化税制の延長
(特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の特別償却又は税額控除制度)

平成25年に創設され、平成27年に2年の延長が決まっていた「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」が、さらに2年延長されることになりました。

「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」の概要は次の通りです。

 

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内容に変更はありません。

 

[voice icon=”https://yz-actax.com/wp-content/uploads/2016/09/IMG_9448.jpg” name=”タカジム” type=”l fb”]中小企業の投資促進税制では、「地域中核企業向け設備投資促進税制」が目を引きますが、確定していない部分が多く、具体的な内容はについてはまだまだこれからですね。それ以外の制度は従来の制度をマイナーチェンジするか延長するかなので、ほとんど変化なしです。[/voice]

 

 

所得拡大税制の見直し

所得拡大税制が見直され、要件の厳格化税額控除の拡大が行われます。

概要は次の通りです。

 

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要件③について、従来は「平均給与支給額 ≧ 前年の平均給与等支給額」だったのが、「平均給与支給額の増加率2%以上」に変わったのと、

税額控除の額が、従来の雇用者給与等支給増加額(その年の給与支給額 ー 平成24年度の給与等支給額)の10%に加えて、その年の給与支給額前年の給与支給額との差額に2%をかけた額になったこと、

が変更点です。

 

 

組織再編税制の見直し スピンオフ税制の導入

組織再編税制が見直され、特定の事業を切り離して独立した会社を作る際の「資産の譲渡」や「株式の分配」を非課税にする、いわゆるスピンオフ税制がが導入されることになりました。

少し分かりづらいので図で説明します。

 

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上図のように、A社の中にある映像制作事業を切り離して、新たに設立するB社に事業を移す場合を考えます(このような事業の切り離しは、社内ベンチャーとして始めた事業が大きく成長して、社内の1事業部としては扱いきれなくなった場合などに行われます)。

もともと映像制作事業は、A社を所有するA社株主のものですから、事業がB社に移転してもその関係が崩れるわけではないので、B社から株式を受け取ることで関係を維持しますが、現行制度では、B社株式を受け取る際に配当が発生する(みなし配当)と判断されて、その配当に対して課税されてしまいます。

また、A社がB社へ映像制作事業に関する資産(著作権、版権等の権利や製作用の機材など)の移転について、現行制度では時価で譲渡することになっていて、含み益(時価と簿価の差額)に対して課税されてしまいます。

 

もう1つの例です。

 

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今度は、A社が100%の株式を保有して完全子会社にしているB社を切り離すケースです。A社が保有しているB社株式を、A社株主に移転させることで、B社をA社から切り離して完全に独立させます。

この場合のA社株主とB社の関係を見てみると、

 

・A社を通じて間接的に所有する(切り離す前)

・B社株式を保有して直接所有する(切り離した後)

 

という違いはありますが、「A社株主がB社を所有する」という点では、切り離す前と後では変化はありません。つまり、実態としてのA社株主とB社の関係切り離す前後で変わらないと言うことです。また、A社株主とA社の関係についても変化はありません。

ところが、現行制度ではA社株主B社株式を受け取る配当が行われたと判断されて税金がかかり、A社株主にB社株式を渡すと、株式の売却と判断されて売却益に対して税金がかかります。

 

このように、既存事業の切り離し(スピンオフ)について現行制度では課税を避けることができないことから、機動的な組織再編に大きな障害になっていましたが、今回の改正では先ほど説明したケースについては、事業切り離し時には課税されなくなることになりました。

 

 

役員給与の見直し 利益連動給与の指標の多様化

役員給与として支給される、利益連動給与の指標が拡大します。

政府は、企業に企業価値創造を強く促すための施策として、

中長期的な業績目標の達成度合いに応じて譲渡制限を解除する株式を役員に与えるパフォーマンス・シェア

一定期間の譲渡制限が付けられた株式を役員に与えるリストリクテッド・ストック

と言ったインセンティブの付いた役員給与の形態を企業が採り入れやすくするように法整備を進める予定ですが、今回の改正はその一環です。

 

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現行制度では、利益連動給与の指標が利益のみであるため、それ以外の指標と連動させて役員給与を決めてしまうと経費として認められません

そこで、利益以外の中長期的な業績評価を行うための指標と連動させて役員給与を決めても経費として認められるように、

株価、売上、将来のある時点や特定の期間の指標

についても利用できるよになります。

 

 

確定申告書の提出期限延長

確定申告書の提出期限の延長が、期末から4ヶ月までに延長されます。

会社法の定めでは事業年度が終了したら、2ヶ月以内に確定申告書を提出することになっていますが、会計士の監査をうける会社で、定款で株主総会を期末日後3ヶ月以内に開催することを決めてている会社については、申告書の提出を1ヶ月延長できる(期末日後3ヶ月以内に提出すればOK)ことになっています。

 

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今回の改正では、この確定申告書提出の提出期限延長について、会計士の監査をうける会社で、定款で株主総会を期末日後3ヶ月以内に開催できない常況にあることがあきらかになっている会社については、期末から4ヶ月までの間で確定申告書の提出期限を延長することができるようになります。

 

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確定申告書の提出期限延長についてはこちらの記事でも扱っています。

 

 

 

 

その他

その他の改正点として、

・営業権の償却方法が月割りに

・外国子会社合算税制が見直され、外国子会社の外形ではなく、実態から租税回避リスクを把握して、租税負担割合が20%以上の場合に会社単位の合算課税が免除される

などの変更があります。

 

 

まとめ

[voice icon=”https://yz-actax.com/wp-content/uploads/2016/09/IMG_9649.jpg” name=”タカジム” type=”l line”]平成29年度税制改正大綱の法人税のポイントは、中小企業向けの減税措置に所得による制限(平均所得金額が15億円を越える企業は対象外)と、研究開発費税制の拡充になると思いますが、大きな変更はない印象です。また、確定申告書提出期限の延長が4ヶ月まで認められるようになることは、決算から申告までのスケジュールに余裕が生まれるの地味にうれしいポイントですね。
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